お帰りなさい

73.1KB(05.04.08)
長い宇宙での勤務を終えて、彼は帰って来た。
どうだった?と訊ねると、彼は「昨日メールしたばかりだろ?」と言って呆れた表情で笑った。
太陽系内とは言え星間輸送船の護衛だから、海賊とか現れる事だってあるし、トラブルだって起こりうる。
宇宙では危険がいっぱいある。ちょっとしたミスが大惨事を引き起こす。
それを良く知っているから、貴方が宇宙にいる時は何時だって心配しているのに…。
勿論、きちんと対応できる人だって分かってはいるけれど、頭で理解していても、心は、それでもやっぱり心配している。
私が宇宙を知っていなければ、こんなに心配しなくても良いのだろうか…?
でも、もし宇宙を知っていなかったとしても、知らない分だけ心配している気がする。
結局は心配するのに代わりは無い。
出てくるのは、とっくの昔に分かっている答えだけ…。

「心配性だな。そんなに心配ばかりしてると早く老けちゃうぞ。」
随分と失礼な事を言う。その原因は誰?しかも毎回、毎回同じ台詞…。
その上呑気に「お、鶯が鳴いてる!地球(おか)はもう春なんだなぁ。」なんて嬉しそうに言っている。
そうよ、貴方が宇宙(そら)を飛んでいる間に、もうとっくに冬は終わってしまったの。
ただし、北半球ではね。

彼の表情がちょっと怪訝そうになった。どうやら私が少しだけ不機嫌になったのに気付いたようだ。
その原因も彼は分かっている。
……多分…。

「今回の休暇は何処か遠出しようか。1ヶ月半の休みが出たんだ。」
随分頑張って休暇を獲得したのね。
「うん。だからリクあったら聞くよ。」

あれだけ荒廃していたのに、今では地球の自然環境は大分回復している。だから観光業もかなり復活してきている。
南の島でのバカンスも素敵…。青い空と海に白い砂浜の美しいコントラスト。海に沈む夕日も見たい。日の出も。星空だってきっと奇麗…。
だけど…。実は、したい事はもう決まっている。

貴方とフツーの生活をしたい。
「…へ?」
私だって、仕事あるし。長官の秘書って言うのは忙しい。それは知ってるでしょ?
「…って事は、オレ、休暇を主夫して過ごすのか?ひょっとして。」
ひょっとしなくても、そうなるかも、ね。
だから私の休暇の間は貴方のリクエストに応えてあげる。

彼の顔がうーんと渋くなった。でもそれは直ぐに消えて無邪気な笑顔になる。
「じゃ、小笠原で新しく水族館がオープンするんだってさ。そこに行きたい。」
…やっぱりね。
きっと植物園とか動物園とかバードウォッチングとか、そんな所に行きたいのよね。貴方は。
私も好きだけど。

それに…。
彼の笑顔を見ていると、とっても嬉しい。私も幸せになる。

…私は貴方と一緒にいたい。
ただそれだけ。
時には一緒にいて、時には別々な行動をして…。
時には喧嘩だってしても良い。
……余り好ましくないけど。

ただ、会いたいと思った時、直ぐに会えたら…。
一緒に過ごしていたいと思った時、一緒に過ごせたら…それで良い。
今の私にはそれがとっても必要で、贅沢な事だから。

ふと、彼を見ると、真面目な顔をしている。
行ってみたい所をリストアップしている真っ最中らしい。熱心にあれこれと考えているようだ。
あのね。一生懸命、考え事しているところ悪いんですけど、…でも久し振りの再会を果たしたばかりの婚約者をそっちのけはないでしょう?

彼の肩に手を掛けて、ちょっと背伸びする。
そして彼の頬に軽く口付けした。

「うわ、何?突然!?」
彼の顔が見る見るうちに真っ赤に染まる。

良かった。
これで私の元に戻って来てくれた。

「お帰りなさい。」

                                                        FIN


<あとがき>
何というか…。ユキが勝気です。
いや、勝気なんですけど。
古代君サイドの話もあります。(予定)

ヤマトサイトさんを拝見していると、古代君はかなりの動植物スキーさんになってますね。
おお、皆さん同じ事考えてたんだーと嬉しくなっちゃいました。
確か小説版では古代君は生物学者になるのが夢だった…というのがありました。
コバルト(ふ…古っ)だったような…。

BACK